長屋先生が 「うめした内科10周年記念シンポジウム」 で発表
5月7日(土)、五月晴れの爽やかな風が吹くなか、福岡の中心街・天神にあるアクロス福岡の国際会議場において、うめした内科10周年記念シンポジウムが開催されました。そのなかのパネリストの一人として、当クリニックの長屋直樹先生が講演されました。
「うめした内科」は、福岡市内のクリニックです。このシンポジウムは、TL医療を日々実践していらっしゃる院長の梅下滋人氏が、「うめした内科」10周年を迎え、皆さまへの感謝と今後への所信表明の場として発心された会であると伺いました。当日は会場いっぱいに、患者さんをはじめ234名もの方が参加されました。
冒頭、梅下院長の挨拶では、医師を目指した頃の苦労話をユーモアを混じえながらお話しされ、続いて、TL医療との出会い、開業までの歩み、さらには10年という節目にあたって、第2の開業宣言を力強く述べられ、シンポジウムが始まりました。
シンポジウムのパネリストは、TL医療を実践する3人の医師(許斐博史先生:中川の郷療育センター、長屋直樹先生:トータルライフクリニック本郷内科、古賀哲也先生:今給黎総合病院)で、それぞれの現場での医療実践を熱く語られました。
長屋先生の講演では、「在宅医療の新しい風」というテーマで、老いや病いの中でも歓びと希望を持って生きることができる在宅医療への取り組みが分かち合われました。そのなかで紹介された在宅訪問先での患者さんの笑顔の写真からは、明るい希望が溢れていることが大変心に残りました。
在宅医療の現場は、老いや病いという人間の根本的な痛みが存在していますが、そのような苦しみの多い場で、患者さんが希望をとりもどしてゆく医療実践とはどのようなものなのかー? 会場の皆さんが身じろぎもせず集中されている中、お話が続きました。
長屋先生は、TL(トータルライフ)人間学を基に「死とは」「老いとは」「寝たきりとは」というテーマをどのようにとらえるのかを話されました。一例として、「老い」については、従来は、全てを失う季節(玄冬の季節)、身体的、知的、精神的活動の衰えるつらい時期とのとらえ方がありますが、TL人間学では「人生にとって収穫と円熟の季節」であるととらえます。そしてこの老いの時期にこそ今まで得ることのできなかった新たな心境にいたることができると、その意味と可能性を深くとらえています。
具体的な事例をいくつか紹介されましたが、その一つ、93歳の直腸癌術後の患者さんは、訪問診療開始当初(4年半前)は、「生きていたって仕方がない」「もう死んで楽になりたい」とおっしゃっていました。しかし、苦痛の緩和と不安の除去に努め関わるなかで、心身の安定とともに、感謝の気持ちが芽生え、「ありがたい」という言葉を医療者や介護者そして家族に度々語られるようになられました。今では100歳まで生きることを目標に家族との出会いに感謝しながら毎日の生活を送っていらっしゃるそうです。
何よりも、医療者のまなざしが歓びや希望にみち確信があるからこそ、関わる患者さんにも伝わってゆくのだと実感し、医療者がどのような心構えをもって関わるかがとても大切なことを教えていただきました。
会場は終始、熱気と集中の場でした。他の2名の医師の方からもTL医療の実践が分かち合われ、TL人間学に基づいた医療の実践が、どれほど痛みを癒し希望をもたらすのかを強く感じました。このような医療が一人でも多くの医療従事者に伝わり、実践され、痛みある方々に希望が甦ることを心から願います。